最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)187号 判決 1991年9月17日
東京都荒川区西日暮里二丁目二七番五号
上告人
株式会社 京伸
右代表者代表取締役
澤井壽治
右訴訟代理人弁理士
若林拡
柿本邦夫
千葉県市川市鬼高四丁目一四番九号
被上告人
株式会社 ハマダ医研
右代表者代表取締役
植田茅
右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第二〇六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年七月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人若林拡、同柿本邦夫の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)
(平成二年(行ツ)第一八七号 上告人 株式会社京伸)
上告代理人若林拡、同柿本邦夫の上告理由
一、原判決は、以下の点において、法令の解釈適用を誤り、経験則に反する判断を下しており、判決に影響を及ぼす事項の判断に重大なる法令の違背があるから、破棄を免がれないものである。
1 原判決は無効事由2に関し、本件発明と第二引用例記載の発明との対比において、本件発明及び引用例に記載された発明、技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第一項第三号の解釈、適用を誤ったものである。
2 原判決は無効事由3に関し、本件発明及び引用例に記載された発明並びに周知技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第二項の解釈、適用を誤ったものである。
3 原判決は理由不備又は理由に齟齬があると認められる。
二、上告理由第一点
原判決は無効事由2に関し、「第二引用例には、鎮痛用皮接治療具として、ゲルマニウム200ミリグラムとN型ブルー半導体をくっつけ、更にRという物質が加工されたものを入れた金属ロケット(サンプラ製)が記載きれていることが認められるところ、本件発明に係る鎮痛用皮接治療具は「ゲルマニウムからなる固形片」であり、両者の皮接治療具としての構成は明らかに異なっている」としている(原判決二三丁裏第六行乃至二四丁表第二行)。
しかし、引用例には前述の記載のほかに、「ゲルマニウム+半導体を人体という電子的反応を内在するものにふれさせるとベーター線となって伝わる理論によって、患部あるいは経穴経路に当該物質を密着させることにより鎮痛、治療する」という技術思想が開示されているものである(第二引用例第八四頁)。
このような記載があるにも拘らず、原判決は前述の第二引用例の「・・・さらにRという物質が加工されており・・・」の記載から、第二引用例に記載された発明における構成は「ゲルマニウムと他の物質」であるものと認定した結果、本件発明の構成要件「ゲルマニウムの固形片」とは相違すると誤った判断を行ったものである。
即ち、第二引用例には、前述のように「ゲルマニウム+半導体を人体という電子的反応を内在するものにふれさせるとベーター線となって伝わる理論によって・・・」なる記載があることから、第二引用例に記載された発明の構成要件は「ゲルマニウムと他の物質」に限定されるものではなく、当業者は当該記載から「他の物質」を含まない「ゲルマニウム」のみの技術的思想も包含しているものと当然に理解されるものである。
従って、本件発明の構成要件「ゲルマニウムの固形片」については第二引用例にも記載されており、この点両者は実質的に同一である。
また、本件発明に係る明細書(甲第二号証)の発明の詳細な説明の欄には、「本発明は、ゲルマニウムを素材として用いてある。これは単結晶、多結晶の何れでも、また純度の高いゲルマニウムに+3または+5の原子価を持つ物質を添加したP型またはN型の不純物を含むものでも、またこれらの棒状体をスライスしたものまたは粉末を焼結等の手段で成形したものでもよいが、」との記載があることから(第一頁第二欄第二三行乃至第二九行)、本件発明の「ゲルマニウムからなる固形片」はゲルマニウムを主な素材として用いてあればよく、+3または+5の原子価を持つ物質を添加したP型またはN型の不純物を含むものでもよいのである。
従って、この点からしても本件発明の「ゲルマニウムからなる固形片」と第二引用例における「ゲルマニウム+半導体を人体という電子的反応を内在するものにふれさせるとベーター線となって伝わる理論によって・・・」なる記載から理解される「ゲルマニウム」とは実質的に同一である。
よって、原判決が相違点として挙げた本件発明の「ゲルマニウムの固形片」と第二引用例に記載された発明の「ゲルマニウムと他の物質」なる構成要件の比較は、明らかに本件発明及び引用例に記載された発明の解釈、採証法則を誤ったものである。
次に、原判決は「本件発明においては、ゲルマニウムの固形片を直接人体に皮接するのに対して、第二引用例の発明においては「ゲルマニウムと他の物質からなるものを金属ロケット中に装填して用いるものである点で相違するとした審決の判断は正当である」としている(原判決二四丁表第八行乃至第一一行)。
しかし、第二引用例には前述のように「ゲルマニウム+半導体を人体という電子的反応を内在するものにふれさせるとベーター線となって伝わる理論によって・・・」なる記載があることから、第二引用例に開示きれた発明には「ペンダント状ロケットカプセルの中に装填して、このロケットを直接人体に皮接する」以外に当該カプセルを介さない「直接人体に皮接する」技術的思想も開示されているといわなければならない。
また第二引用例に「直接人体に皮接する」技術的思想が開示されていないとしても、本件発明に係る明細書(甲第二号証)の発明の詳細な説明の欄には、「実施例のゲルマニウム片を株式会社フジモト販売にかかる商品名「ピッブエレキバン」用の直径20mmの円形絆創こうに接着、」なる記載があり(第二頁第四欄二四行乃至二七行)、ある固形片をペンダント状ロケットカプセルの中に装填して、このロケットを介して直接人体に皮接するか、また固形片のみを絆創こう等で「直接人体に皮接する」するかは、単なる慣用手段の転換に過ぎないものである。
畢竟、本件発明は第二引用例に記載された発明と実質的に同一であり、本件発明の構成自体に何ら新規な技術的事項は含まれておらず、また両者の目的、効果も同一であって本件発明は何ら新規性を有しないにも拘らず、原判決は本件発明及び引用例に記載された発明、技術の解釈並びに本件発明に係る明細書に記載された慣用技術を考慮することなく、特許法第二九条第一項第三号の適用をおこなったものであり、審理不尽によって判決に影響を及ぼす事項の判断に重大なる法令の違背があるから破棄を免がれないものである。
三、上告理由第二点
特許法第二九条第二項は、いわゆる発明の進歩性についての規定であり、発明の進歩性の判断は当業者のレベルで、その出願時を基準として、その発明に係る構成、目的、作用効果の各々についての予測性、困難性について考察すべきであり、この内、構成を中心に対比判断するのが通常である。
しかし、原判決は無効事由3に関し、第六引用例、第七引用例に記載された字句のみに拘泥し、本件発明及び引用例に記載された発明並びに周知技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第二項の解釈、適用を誤ったものである。
原判決は、まず「第七引用例は「ゲルマニウム二五〇ミリグラムを入れたペンダントを製造させ、これをムチ打ち症や高血圧、胃腸病など万病に効くというふれ込みで製造、販売した記事」が記載され、更に「肩こりに効いたので人のためになると思って売った。」ことも記載されていることを認めた上で、「第七引用例は右のような記事の性質内容に徴しても、そこに記載された技術的事項は信頼をおかれて理解され得る性質のことではないし、第七引用例を通常の技術文献としてみることは到底できない」としている(原判決二五丁裏第四行乃至二六丁表第一行)。
しかし、第七引用例における当該記載からすれば、当業者の平均的な技術知識を有する者はゲルマニウムを装填したペンダントを、その使用形態からして当然に首、胸部皮膚表面上に位置させることで、当該ペンダント内のゲルマニウムが人体外表面より何らかの作用を及ぼし、肩こり等の治療をなすという発明の構成及び効果が記載されていると十分に理解できるものである。
従って、当該作用が記載されていないとしても、第七引用例は十分に特許法第二九条第二項の適用の基礎になる発明でありながら、「そこに記載された技術的事項は信頼をおかれて理解され得る性質のことではないし、第七引用例を通常の技術文献としてみることは到底できない」と認定した原判決は、引用例に記載された発明の解釈並びに採証法則を誤った経験則違反の判断といえる。
なんとならば、特許を受けた本件発明においてですら、その明細書(甲第二号証)の発明の詳細な説明の欄に「かような著効が生じる性化学的、電子学的機構は、未だ明解ではないが、少なくとも、ゲルマニウム板片の電子が身体の外部からでも体内電子に影響を及ぼすからであろうと推認される」と記載しているに過ぎないからである(第一頁第二欄第一七行乃至第二〇行)。
次に、原判決は「しかも、右の新聞記事によっても、「万病に効く」とされたのは、「ゲルマニウム二五〇ミリグラムを入れたペンダント」であり、そこにはゲルマニウムを直接人体に皮接する技術は何ら開示されていない。この点、原告は第七引用例のもののようにゲルマニウムをペンダントに装填するか、本件発明のようにゲルマニウムの固形片を直接人体の患部に皮接するかは、当業者が容易に想起する単なる慣用手段の転換に過ぎないものである旨主張するが、第七引用例には、そのように理解すべき記載も示唆もないものである」としている(原判決二六丁表第一行乃至第八行)。
しかし、当該認定が明らかに審理不尽の結果であることは以下の点からも明らかである。
即ち、本件発明の要旨は「ゲルマニウムからなる固形片と、該固形片上に設けられ皮接体とからなることを特徴とする人体の経穴経路あるいは痛み等の部位に皮接して用いる皮接具」であることから、本件発明の構成は<1>「ゲルマニウムからなる固形片」と<2>「該固形片上に設けられた皮接体」を特徴とするものである。
一方、第五引用例には「接着テープの中央部に磁気板を接着してなる磁気治療器が記載され、そしてこの磁気治療器を患部または身体各部のつぼに貼着し肩こりなどに対する治療すること」が記載されている。
本件発明における<2>「固形片上に設けられた皮接体」即ち、「治療具を直接人体の患部に皮接して疾患部の治療をなす」技術手段は第五引用例における「絆創膏などの接着テープで磁気板を接着し、直接磁気板を患部に接触させて肩こりなどに対する治療効果を促進する」という技術手段、また本件発明に係る明細書(甲第二号証)の発明の詳細な説明の欄の『実施例のゲルマニウム片を株式会社フジモト販売にかかる商品名「ピップエレキバン」用の直径20mmの円形絆創こうに接着』という技術手段の記載からしても、本件発明の出願前において普通に用いられていた慣用技術にすぎないことは明らかである。
次に、第七引用例には、「ゲルマニウム二五〇ミリグラムを入れたペンダントを製造させ、これをムチ打ち症や高血圧、胃腸病など万病に効くというふれ込みで製造、販売した記事」が記載され、更に「肩こりに効いたので人のためになると思って売った。」ことも記載されている。
本件発明における<1>「ゲルマニウムからなる固形片」と第七引用例に記載されたものとを検討すると、審決も認めているとおり両者はゲルマニウムを用いて人体の患部の治療を行なう点は共通するものであり、両者の相違は前者がゲルマニウムの固形片を直接人体の患部に皮接する点、後者がゲルマニウムをペンダントに装填している点のみの差にすぎないものである。
しかし、第七引用例には、前述のように当業者の平均的な技術知識を有する者はゲルマニウムを装填したペンダントを、その使用形態からして当然に首、胸部皮膚表面上に位置させることで、当該ペンダント内のゲルマニウムが人体外表面より何らかの作用を及ぼし、肩こり等の治療をなすという発明の構成及び効果が記載されていると十分に理解できるものである。
よって、第七引用例においては、ゲルマニウムをペンダントに装填しているが、当該ペンダントはその内部に装填したゲルマニウムを、首、胸部皮膚表面上に位置させるための単なる保持手段にすぎないのであるから、ゲルマニウムをペンダントに装填するか、あるいは本件発明のように<1>「ゲルマニウムからなる固形片」を前記慣用手段のように接着テープで直接人体の患部に皮接するかは、いわゆる当業者であれば容易に想到し得るものである。
このことは、本件発明の出願前の第五引用例における「絆創膏などの接着テープでフェライト永久磁石を接着し、直接フェライト永久磁石を患部に接触させて肩こりなどに対する治療効果を促進する」という技術のほか、甲第一三号証の一(実用新案出願公開昭四九-一二九一号公報)及び年第一三号証の二(実願昭四七-三九八〇四号に係る願書、明細書、図面)からも明らかなように、直接患部に皮接させず、当該フェライト永久磁石を首飾具内部に装填し、当該フェライト永久磁石により人体外表面より弱い磁力線を通して血行をよくし治療効果を発揮する」という技術の存在からも首肯できるものである。
つまり、各種の疾病を治癒するとされる物質の特性(例えば、第五引用例の場合は磁気板「フェライト磁石」の磁力)を利用する場合に、当該物質の固形片を疾患部の皮膚上に接着テープで直接接触させるか、あるいは当該固形片を首飾具内部に装填し用いるかは、本件発明の出願前に普通に用いられた慣用技術にすぎないものであり、第七引用例のようにゲルマニウムをペンダントに装填するか、本件発明のようにゲルマニウムの固形片を直接人体の患部に皮接するかは、当業者が容易に想起する単なる慣用手段の転換に過ぎないものである。
また「ゲルマニウムからなる固形片」自体は出願前に存在し、新規なものではないことから、本件発明が特許されたのは「ゲルマニウム」という物質の属性が人体に作用して鎮痛、消炎効果を奏すると示された臨床データが提出されたことに起因するものであり、本件発明はこの点に本質的な特色を有するものである。
当該「ゲルマニウム」という物質の属性が人体に作用して鎮痛、消炎効果を奏することは、前記第七引用例のほかに第六引用例の記載からも当業者は容易に認識できるものである。
即ち、第六引用例には、「社会福祉法人保護協会附属診療所の岡沢美江子医師が集められた、有機ゲルマニウムを使用した臨床例が記載されており、その臨床例の一部によると、有機ゲルマニウム水溶液の患部への塗布、有機ゲルマニウム化合物を含有した軟膏の患部への塗布、ゲルマニウム化合物の水溶液の服飲、したことによる治療結果」が記載されている。
本件発明における<1>「ゲルマニウムからなる固形片」と第六引用例に記載されたものとを検討すると、審決も認めているとおり両者はゲルマニウムを用いて人体の患部の治療を行なう点は共通するものの、「第六引用例に記載のものにおいては、有機ゲルマニウムであり」(第一〇頁第九行乃至同頁第一〇行)、「更にこの有機ゲルマニウムの使用はその水溶液を服飲あるいは塗布するものであり、」(審決第一〇頁第一〇行乃至同頁第一二行)と認定しているが、第六引用例には有機ゲルマニウムを含有した水溶液又は有機ゲルマニウム化合物を含有した軟膏を疾患部皮膚上に直接に塗布等して治療効果を奏し得ること、即ち、ゲルマニウムを内服して用いる以外にも皮膚表面上に位置せしめて外用として用いても治療効果を奏し得るという事項を開示していることは明白である。
すると、本件発明の出願前においては、有機ゲルマニウムを直接皮膚表面上に位置せしめて外用として用いることで治療効果を奏し得るという技術的事項が開示されているものである。
従って、前記した第五引用例等に記載の内容から明らかな如く、ある物質の特性(例えば、第五引用例の場合は磁気板「フェライト磁石」の磁力)を利用し、これを皮膚上に当設して疾患部の治療をなすという技術事項は、本件特許出願前の慣用技術であるのであるから、右記の第六引用例の開示技術である有機ゲルマニウム化合物を含有した軟膏を疾患部皮膚上に直接に塗布等して治療効果を奏する物質的特性を持つゲルマニウムを、固形上の適宜の形状に成形し、本件発明の皮接体上に設けられる構成要件<1>「ゲルマニウムからなる固形片」とし、前記のように接着テープ等で直接人体の患部に皮接することは、いわゆる当業者であれば容易に想到し得るものであると認められる。
しかしながら、原判決は前述のように「原告は、第七引用例のもののようにゲルマニウムをペンダントに装填するか、本件発明のようにゲルマニウムの固形片を直接人体の患部に皮接するかは、当業者が容易に想起する単なる慣用手段の転換に過ぎないものである旨」主張するが、第七引用例には、そのように理解すべき記載も示唆もないものである」としているが、上告人は当該慣用手段を前述のように本件発明に係る明細書(甲第二号証)の発明の詳細な説明の欄並びに第五引用例における「絆創膏などの接着テープでフェライト永久磁石を接着し、直接フェライト永久磁石を患部に接触させて肩こりなどに対する治療効果を促進する」という技術のほか、甲第一三号証の一(実用新案出願公開昭四九-一二九一号公報)及び甲第一三号証の二(実願昭四七-三九八〇四号に係る願書、明細書、図面)の記載に基づいて主張しているにも拘らず、原判決は単に当該第七引用例にそのように理解すべき記載も示唆もないものである。」と誤った審理不尽の認定を行なったものであり、当該慣用手段が第七引用例に記載されていないことに基づき、特許法第二九条第二項を判断したことは、第七引用例に記載された字句のみに拘泥し、本件発明及び引用例に記載された発明並びに周知技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第二項の解釈、適用を誤ったものであって、判決に影響を及ぼす事項の判断に重大なる法令の違背がある。
更に、原判決は「本件発明の構成のごとく「ゲルマニウムからなる固形片」と「該固形片上に設けられた皮接体」とを組み合わせることが、当業者にとって容易なことと認めることはできないとし、本件発明の効果を予測することはできないものというべきである」としている(原判決二六丁裏第三行乃至第六行)。
しかし、本件発明の鎮痛と消炎効果が顕著であるという明細書に記載の効果は、単に本件発明がゲルマニウムを直接人体に皮接する効果と第七引用例に記載された発明がペンダントを介して間接的にゲルマニウムを人体に皮接してなることから生ずる効果の差異に過ぎず、このような効果は当該手段の相違から生ずる効果として、当業者が容易に想致できるものである。
以上のように、本件発明の構成は、第五引用例等に記載の接着テープ等の慣用技術と、本件出願前に第六引用例乃至第七引用例に記載の発明並びに容易に予測可能な技術事項、即ち疾患部に当接せしめるゲルマニウムの固形片とを単に組み合せたにすぎず、各構成要素において何ら新規な技術的事項は存しないものであり、この点構成上の難易性を見い出すことはできないばかりか、効果自体も当業者が容易に想致できるものである。
畢竟、本件発明は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第七号証(第五引用例)乃至甲第九号証(第七引用例)に記載された発明並びに容易に予測可能な技術事項に基いて、いわゆる当業者が本件特許出願前に容易に発明し得たものでありながら、原判決は本件発明及び引用例に記載された発明並びに周知技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第二項の解釈、適用を誤ったものであって、判決に影響を及ぼす事項の判断に重大なる法令の違背があるから、破棄を免がれないものである。
四、上告理由第三点
原判決は、次の点において、理由不備又は理由に齟齬があると認められる。
原判決は本件特許におけるある物質を直接皮接するか、あるいは間接的に皮接するかは単なる慣用手段の転換であることは、上告人が甲第一三号証で明確にされることにより、重大な理由となるべきところ、この点に関し原判決は何ら判示するところがない。
従って、このような点を検討することなく、単に第七引用例に当該慣用手段が記載されていないとしただけであり、審理不尽であるとともに、理由の体を成さないものである。
五、結論
以上、上告理由の第一点及び第二点で述べたとおり、原判決は無効事由2に関し、本件発明と第二引用例記載の発明との対比において、本件発明及び引用例に記載された発明、技術の解釈並びに採証法則をった結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第一項第三号の解釈、適用を誤り、また無効事由3に関し、本件発明及び引用例に記載された発明並びに周知技術の解釈並びに採証法則を誤った結果、審理不尽の法令違背違反によって特許法第二九条第二項の解釈、適用を誤ったものであるから、原判決は民事訴訟法第三九四条の規定に該当し、その判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があるとともに、上告理由第三点において述べたとおり同法第三九五条第一項第六号にいう理由不備又は理由に齟齬があると確信し、此処に上告理由を開陳し、最高裁判所の適正な判断を仰ぐ次第である。
以上